「最初から条件を言って交渉したくありません。振興策で釣るようなことはやりたくないんですよ」
5月16日朝、鹿児島市の高台にある城山観光ホテルの一室。官房長官、平野博文はテーブルの向こうに座る同県・徳之島の住民14人に物腰柔らかに語りかけた。朝だというのに部屋のカーテンは閉め切られ、密談の雰囲気をかもしだしていた。
卓上には住民側が作成した資料が置かれていた。米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)にいる海兵隊ヘリコプター部隊の訓練を徳之島で受け入れる条件として、振興策の充実を求める要望だ。すでに島内の伊仙、天城、徳之島3町長は受け入れ反対を表明していた。平野は賛成派住民と会うことで、島の「民意」を受け入れに転じさせることをもくろんでいた。
いったんは渋面をみせた平野だが、徳之島を含む奄美群島への航路・航空運賃の沖縄並み引き下げ、燃料価格の本土・沖縄並み引き下げなど7項目の要望に目を通すと、おもむろに住民側に身を乗り出した。
「沖縄並みのことは、せなあかんでしょうな。悪いようにはしません」
× × ×
振興策をめぐる平野の回りくどい態度には理由がある。民主党は自民党政権が普天間の代替施設受け入れの事実上の見返りとして、沖縄本島北部地域の振興策を実施した手法を批判してきたからだ。
「『アメをやるから言うことを聞きなさい』とのやり方はあるべき姿でない」
首相、鳩山由紀夫は2月、記者団に明言した。
人口約2万6千人の徳之島を含む奄美群島は、1人当たりの年間所得が都道府県最低の沖縄県よりも低く、生活保護を受ける住民の割合は1千人中45人で沖縄県の3倍近い。「公共事業削減」を掲げる鳩山政権は平成22年度予算で、奄美群島振興開発事業費を前年度比で29%減らし、住民の反発を買っている。
昨年中に徳之島への訓練移転を決めていれば、事業費を3割も減らすことはなかったはずだ。
これまで基地問題に関する地元対策は、防衛省の出先機関である各防衛局が住民の意向を聞き、国と地元のパイプ役を果たしてきた。事務方を飛び越え自ら根回しに乗り出した平野の手法は、積み上げ型の過程を無視したものだ。場当たり的で戦略性のない鳩山政権を象徴している。
平野だけでない。鳩山自身も2度にわたって沖縄入りしたのだ。
普天間問題を手がけた自民党の閣僚経験者はあきれ顔でこう語った。
「首相は『切り札』。その切り札を最初から、しかも2度も切るなんてありえない。鳩山も平野も交渉を知らない」
× × ×
23日午後、鳩山の2度目の沖縄訪問にあわせ、那覇市内にある沖縄ハーバービューホテルに県内経済団体の代表10人が集められた。鳩山が沖縄の経済状況を「勉強」するとの趣旨だった。口火を切ったのは県経済団体会議議長、知念栄治だった。
「今日は経済問題の話をするような環境ではなさそうです。むしろ基地問題の話をうけたまわり、われわれとしてどうすればいいか検討する場にしたい」
きっぱりと拒絶された鳩山は「昨今の沖縄の経済状況もご指導いただければありがたい」と頭を下げるのがやっとだった。
鳩山は午前中の沖縄県知事、仲井真弘多(なかいま・ひろかず)との会談で名護市辺野古付近への代替施設建設を表明した。経済団体側はその模様をテレビ中継で見て、振興策をねだったと誤解されるような発言を厳に慎むよう申し合わせていた。
鳩山は近く政府と県、関係市町村による協議機関を設けて振興策を話し合う考えだが、地元経済界は、策に窮した政府が沖縄振興策という「アメ」で丸め込もうとする意図を敏感に感じ取っている。
「沖縄の経済問題はしっかりと経済界の意見も聞いて政府として支援したい。アメだとかムチだとかという思いで考えているつもりはありません」
会談後、鳩山は記者団に対し一方的に沖縄振興に取り組む考えを強調した。
常識外れの交渉を行った“政治主導”のツケは「最初から現行案を進めていた場合に比べて、2倍以上の振興費を払わなければ移設を受け入れてもらえない」(防衛省幹部)という形で、政権に跳ね返ることになる。(敬称略)
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